パッケージ費用は削るべきコストか|決算書に載らないブランド資産
公開日:2026年09月18日(金)|ブランディング
大阪で七十余年、貼り箱をつくってきた三代目が、会計の話をします
<Xでシェア> <Facebookでシェア>一万円のチラシは数秒で捨てられ、一万円の箱は何年も捨てられない。同じ費用でも、残り方がまるで違います。けれどその差は、決算書には一行も現れません。載らないから削られてしまう資産について、大阪の貼り箱屋三代目が会計の言葉で話します。

「箱代、もう少し下がりませんか?」
この一言を、私は三代目として何百回と聞いてきました。
責める気はまったくありません。むしろ当然だと思う。中小企業の経営者にとって、一円は一円です。毎月の試算表を睨んで、削れるところを探す。その眼差しの真剣さを、私は知っているつもりです。
ただ、その真剣さが、ときどき間違った場所を削ってしまう。
今日はその話をします。会計の言葉を使いますが、専門的な話ではありません。むしろ、経営者が毎月見ている数字の中に、どうしても現れないものがある。その話です。
まず、会計の話を正確に
箱代は「借金」ではありません。
当たり前のようですが、感覚としては借金に近いものとして扱われがちです。先にお金が出ていって、戻ってくるかどうかわからない。あの感じです。
でも会計上の流れは、こうなっています。
| 時点 | 会計上の扱い | どこに載るか |
| 仕入れた時 | 棚卸資産 | B/S(貸借対照表。バランスシート)の資産の側 |
| 商品が売れた時 | 売上原価 | P/L(損益計算書)の費用 |
つまり箱は、売れるまではれっきとした資産で、売れた瞬間に費用へ移る。数字の上では、それだけの話です。負債、つまり返済義務のある他人資本ではありません。
(掛けで仕入れれば買掛金という負債は立ちますが、それは支払うまでの数十日の話であって、パッケージの本質ではありません。)
では、問題はここです。
売れた瞬間に、箱の価値はゼロになるのでしょうか。
消える経費と、消えない経費
チラシを一万円分刷ったとします。配って、読まれて、数秒で捨てられる。効果は残るかもしれませんが、モノは消えます。
貼り箱を一万円分つくったとします。商品が売れて、お客様の手に渡る。そこから先が違う。
捨てられないんです。
小物入れになる。書類入れになる。クローゼットの上で埃をかぶりながら、それでも残る。引っ越しのたびに「これ、捨てようか」と手に取られて、結局また戻される。
同じ一万円でも、償却されるスピードがまるで違う。
これは私が考えた理屈ではありません。お客様が実際にやっていることです。私たちは、自分たちがつくった箱が何年も後に「まだ持ってます」と写真付きで送られてくる仕事をしています。チラシで同じことは起きません。
なぜ、その価値は数字にならないのか
ここが本題です。
会計の世界には「自己創設のれん」という言葉があります。自分の会社が長年かけて育てた信用、企業文化、組織の力、お客様の記憶。それらは社会通念としては明らかに企業の資産であっても、会計上は資産として計上することができません。
なぜ禁じられているのか。理由は、拍子抜けするほど真っ当です。
つくった本人が「うちのブランドには3億円の価値がある」と勝手に決めていい話ではないからです。企業価値を見積もるのは財務諸表を読む側の仕事であって、つくる側の仕事ではない。だから載せてはいけない。
では、ブランド価値が「B/S」に顔を出す瞬間はあるのか。あります。ただ一度きりです。
その会社が誰かに買収されたとき。買った側の帳簿に「のれん」という名前で、初めて数字として現れる。何十年もかけて積み上げてきたものが、売られた瞬間にようやく可視化される。
つまり、こういうことです。
あなたが今日パッケージに払ったお金は、B/Sのどこにも資産として現れない。でもそれは、価値がないからではない。載せることが禁じられているからです。
載らないから、誰も褒めてくれない。載らないから、削っても短期的には何も痛まない。
そこが、いちばん怖いところです。
載らない資産が、数年後に何になったか
抽象論で終わらせたくないので、私たち自身の話をします。
和包丁ブランド「HADO」。ブランドの構築からパッケージまで、私たちのチームで手がけました。
立ち上げの時点で、このブランドのB/Sに「ブランド価値」という項目はありません。当たり前です。載せられないのですから。あったのは、デザインにかけた費用と、箱にかけた費用と、時間だけ。
それから数年。HADOは今、海外を中心に強いブランドに育ちました。2025年末くらいから、特によく売れるようになっています。
あの時の「載らなかった投資」が、今の売上をつくっています。
ここで正直に言っておきたいことがあります。箱を良くしたから売れた、という単純な話ではありません。ブランドの設計があり、届け方があり、何より和包丁としての品質があった。パッケージは、その一部です。
ただ、一部だからといって、削っていい部分ではなかった。
お伝えしたいのはこれです。数年かけて育つものに、投資判断の期限を一年で切らないでください。

「なら」を、検証してください
ここまで読んで頷いてくださった方に、あえて冷たいことを言います。
「将来の売上につながるなら、投資だ」。
この「なら」を、感覚のまま放置しないでください。検証しない投資は、投資ではなく賭けです。そして賭けは、経営者がいちばんやってはいけないことです。
見るべき数字は、拍子抜けするほどシンプルです。
| 指標 | 見方 | なぜ効くか |
| 価格 | 箱を変えて値上げできたか(いくら、何%) | いちばん直接的。粗利に直結する |
| リピート率 | 再購入の比率が動いたか | 記憶に残ったかどうかの代理指標 |
| 手元保管率 | 箱ごと写真を撮ってSNSに上がっているか | 「捨てられていない」ことの可視化 |
| 返品・クレーム | ギフト用途での破損・不満が減ったか | 箱の機能面の投資回収 |
全部やる必要はありません。一つでいい。追ってください。
数字が出た瞬間、その支出はあなたの中で「経費」から「戦略」に変わります。そして一度そう変われば、二度と単純な値引き交渉の対象には戻りません。
最後に
私たちは、箱をつくる会社です。1952年から、大阪で。
でも売っているのは箱ではありません。
意思を運ぶ箱。それだけです。
中身が届くだけなら、段ボールで足ります。でも、つくった人が何を考えてそれをつくったのか、どんな覚悟で値段をつけたのか。それを言葉なしで伝えられるのは、手に取った瞬間の手触りだけです。
数字に載らないものを信じられるかどうか。
それは中小企業の経営者にとって最大のリスクであり、同時に、四半期決算に縛られた大企業には真似のできない、たったひとつの武器だと思っています。
削るところは、ほかにもあるはずです。
よくあるご質問
Q1. パッケージ費用は、会計上どう処理されるのですか?
A1. 仕入れた時点では棚卸資産としてB/Sに計上され、商品が売れた時点で売上原価としてP/Lの費用に振り替わります。負債(返済義務のある他人資本)ではありません。(税務上の細かい区分や広告宣伝費との按分については、顧問税理士にご確認ください。)
Q2. 「自己創設のれん」とは何ですか?
A2. 企業が自分で長年かけて育てたブランド価値や信用のことです。社会通念上は明らかに資産ですが、会計基準では資産として計上することが認められていません。企業価値を見積もるのは財務諸表を読む側の役割であり、作成する側が自己申告するものではない、という考え方に基づいています。M&Aで買収された場合にのみ、買収側の帳簿に「のれん」として計上されます。
Q3. 効果が出るまでどれくらいかかりますか?
A3. ブランドや商材によって大きく異なるため、一律の目安はお出しできません。私たちが手がけた和包丁ブランド「HADO」の場合は、ブランド構築から数年を要しました。少なくとも、半年や一年で判断するのは早すぎるというのが実感です。
Q4. 小ロットで試すことはできますか?
A4. 可能です。割高にはなりますが、テストマーケティングとして100個程度からご相談いただくケースもあります。もちろん数百個〜からはじめるなら、貼り箱の単価は抑えられます。
Q5. まだデザインも決まっていない段階で相談してもいいですか?
A5. むしろ、その段階の方が向いています。当社では箱の仕様より先に、「ブランドをどうつくるか?」「どう売る(販売)か?」「どうプロモーション(宣伝、販売促進)するか?」を聞かせていただくことが多いです。箱は最後に決まるものだと考えています。
Q6. なぜホームページに価格が載っていないのですか?
A6. 寸法・紙・加工・ロットの組み合わせで金額が大きく変わるためです。図面がなくても、現物を一つお持ちいただければお見積りできます。
<出 典>
鶯地隆継(国際会計基準審議会IASB前理事)「<IFRS COLUMN>暖簾に腕押し 第7回 会計基準の役割(その4)」週刊経営財務 No.3452(2020年4月6日)
https://www.zeiken.co.jp/keieizaimu/article/no3452/ZA00034521901.php
※冒頭部分は無料で読めますが、全文閲覧には有料契約が必要です
明治学院大学 経済学部ディスカッションペーパー DP20-01(2020年10月「のれんのオンバランスとオフバランス」斎藤静樹 明治学院大学経済学部名誉教授 オフバランスの自己創設のれんと企業結合により顕在化する取得のれんの関係について)
https://econ.meijigakuin.ac.jp/econ_wp/wp-content/uploads/DP20-01.pdf
<注意点>
自己創設のれんの非計上は、日本基準・IFRSに共通する取扱いです。税務上の広告宣伝費との区分、法人化後の処理については顧問税理士にご確認ください。本記事は会計の一般的な考え方を説明するもので、個別の税務判断を示すものではありません。HADOの事例は当社が手がけた実例ですが、売上・利益の具体的な数値は公開しておりません。効果の程度は商材・市場によって大きく異なります。
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著者:村上紙器工業所 代表.村上 誠
大阪で三代続く貼り箱製造業を営み、パッケージを通してブ
ランド価値を設計するパッケージコンセプター。30年以上、
様々なお客様の課題解決の経験を活かして、パッケージデザ
インから顧客価値を提供します。
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