なぜエルメスは値引きしないのか?中小企業のブランディングと伝え方
公開日:2026年08月08日(土)|ブランディング
自社の「歴史と品質」を「利益」に変える、中小企業のための価値翻訳術
<Xでシェア> <Facebookでシェア>良い商品なのに価格競争に悩んでいませんか? エルメスと日本企業の利益率の差は、単に歴史の長さではなく「価値の伝え方」の違いです。自社のこだわりを機能(スペック)や安心ではなく「高くても買いたい理由」に変換する。安売りから脱却し、適正な利益を生み出すためのブランディングとマーケティングに視点を変えてみましょう。
<この記事の3つの視点>
- エルメスと日本企業の利益率の差は『歴史の語り方』にある
- 日本の職人技を『安心』ではなく『高くても欲しい価値』に変換する方法
- 中小企業が価格競争を脱却する『パッケージ(貼り箱)ブランディング』の具体策

エルメスの秘密は”職人技”ではなく、”語り方”だった
先日、ある数字を調べていて、手が止まりました。
フランスの高級ブランド、エルメスの営業利益率は40.5%。 一方、日本を代表するメーカーの多くは10%に届かないメーカーが多くあります。
「そりゃあ向こうは一流ブランドだから」―― 多くの人はそう思うでしょう。私も最初はそう思いました。でも、貼り箱を三代にわたって作り続けてきた者として、この数字をよく見ていくと、単なる「格の違い」では片付けられない、もっと本質的な差があることに気づいたのです。
それは、自分たちが積み重ねてきた歴史を、「価格」に変換できているかどうか、という差です。
これは大企業だけの話ではありません。むしろ、何十年、何代にもわたって商売を続けてきた日本の中小企業にこそ、深く関わる話だと思っています。
まず、数字を見てください
言葉で説明する前に、実際の決算データを並べた表をご覧いただくのが一番早いと思います。欧米の主要ラグジュアリー企業10社と、日本を代表するB2Cメーカー10社の、直近の本決算(売上高・営業利益・営業利益率)を比較しました。

欧米ラグジュアリー企業10社(各企業の公式決算は、企業名にURLをリンク)
| 企業 | 決算期 | 売上高 | 営業利益 | 営業利益率 |
| エルメス | 2024年12月期 | 151.7億€ | 61.6億€ | 40.5% |
| シャネル | 2023年12月期 | 197億$ | 64.1億$ | 32.5% |
| モンクレール | 2024年12月期 | 31.1億€ | 9.16億€ | 29.5% |
| フェラーリ | 2024年12月期 | 66.8億€ | 18.9億€ | 28.3% |
| プラダグループ | 2024年12月期 | 54.3億€ | 12.8億€ | 23.6% |
| LVMH | 2024年12月期 | 846.8億€ | 195億€ | 23.0% |
| リシュモン | 2026年3月期 | 224.2億€ | 44.9億€ | 20.0% |
| ブルネロクチネリ | 2024年12月期 | 12.8億€ | 2.12億€ | 16.6% |
| ケリング | 2024年12月期 | 171.9億€ | 25.5億€ | 14.8% |
| バーバリー | 2025年3月期 | 24.6億£ | 0.26億£ | 1.1% |
| 平均 | 約23.0% |
日本のB2C向けメーカー10社(各企業の公式決算は、企業名にURLをリンク)
| 企業 | 決算期 | 売上高 | 営業利益 | 営業利益率 |
| 任天堂 | 2024年3月期 | 1兆6,718億円 | 5,289億円 | 31.6% |
| アシックス | 2024年12月期 | 6,785億円 | 1,001億円 | 14.8% |
| ソニーグループ | 2025年3月期 | 12兆9,570億円 | 1兆4,072億円 | 10.9% |
| キッコーマン | 2025年3月期 | 7,067億円 | 737億円 | 10.4% |
| 花王 | 2024年12月期 | 1兆6,284億円 | 1,466億円 | 9.0% |
| ライオン | 2024年12月期 | 4,129億円 | 283.9億円 | 6.9% |
| 象印マホービン | 2024年11月期 | 872億円 | 59億円 | 6.8% |
| シチズン時計 | 2025年3月期 | 3,168億円 | 205億円 | 6.5% |
| 資生堂(コア) | 2024年12月期 | 9,905億円 | 364億円 | 3.7% |
| パナソニックHD | 2024年3月期 | 8兆4,964億円 | 3,610億円 | 4.2% |
| 平均 | 約10.5% |

「高くても欲しい」と言わせる企業は何が違うのか? 価値と価格を一致させる中小企業のブランド戦略
同じ「モノを作って売る」ビジネスなのに、平均で2倍以上の差があります。
面白いのは、日本側にも任天堂(31.6%)やアシックス(14.8%)のように高い利益率を出している会社があり、逆に欧米側にもバーバリー(1.1%)のように大きく落ち込んだ会社がある、という点です。国の違いだけでは説明がつきません。
ここで、「業種がそもそも違うのだから、単純比較はできないのでは」と思われた方もいるかもしれません。もっともなご指摘です。任天堂の高収益はソフトウェアやIPライセンスという特殊な収益構造によるところも大きいですし、製造業と単純に並べていいのか、私自身も何度も自問しました。
でも、だからこそ見てほしい数字があります。同じラグジュアリー業界の中での差です。エルメス40.5%、バーバリー1.1%。業種も、扱う商品も、価格帯すらも近い2社の間に、39ポイント以上の差があるのです。これは「業種構造の違い」では、もう説明がつきません。
つまり私がこの記事で伝えたいのは、「歴史のある業種は儲かる」という単純な話ではなく、同じ土俵に立つ会社同士でも、歴史をどう語るかで利益率がここまで変わる、ということなのです。
「歴史があるから強い」わけではない
ここが一番大事なところなのですが、エルメスが利益率40%を出せているのは、単に「創業188年の老舗だから」ではありません。
日本にも、100年、200年と続く老舗メーカーはたくさんあります。表の中の資生堂も花王もキッコーマンも、みな長い歴史を持つ会社です。それでも利益率は一桁台にとどまっています。
つまり「歴史があること」と「歴史でちゃんと儲けられること」は、まったく別の話なのです。
エルメスがやっているのは、こういうことです。
- 「今も職人が手で仕上げている」という事実を、ただ広報するだけでなく、商品そのものの体験に組み込み続けている
- 昔からのやり方を変えないことを、「古い」ではなく「本物である証拠」として、一貫して伝え続けている
- だからこそ、値段を下げる理由がそもそも存在しない
職人の技を「安売り」していませんか? 伝統をプレミアムな価値へ昇華させるマーケティング
一方、多くの日本メーカーは、長い歴史を持ちながらも、それを「安心・安全・信頼できます」という守りの言葉にしか変換できていません。「昔から愛されています」「創業以来変わらぬ品質です」――これらは悪い言葉ではありませんが、値段を上げる理由にはなりにくいのです。「信頼できる」と「高くても欲しい」の間には、実は大きな溝があります。
逆にバーバリーが利益率1.1%まで落ち込んだのは、象徴的です。同社は一時期、伝統的な英国らしさから離れ、若者向けのストリートっぽいデザインに寄せすぎました。すると「バーバリーらしさ」が薄まり、価格の説得力も一緒に失われてしまったのです。歴史というのは、持っているだけでは意味がなく、語り続けて、ブレずに一貫させて初めて、値段の裏付けになる――このことを、この数字は教えてくれます。

パッケージにも、同じことが言えます
私は貼り箱を作る会社の三代目です。だからこそ、この話を「よその業界のこと」として読み流すことができませんでした。
箱というのは、多くの場合「中身を守るもの」「壊れないための道具」として語られます。機能で語れば、それは他の安い箱と比較され、価格競争にさらされます。実際、私たちの業界でも、「もっと安くできませんか」という言葉を、何度も聞いてきました。
でも、私たちの箱には、機能だけでは説明できないものが積み重なっています。
- 一つひとつ、職人の手で貼り上げていること
- 何十年も、同じ手順を、同じ丁寧さで守り続けてきたこと
- その箱を開けた瞬間、贈る人の気持ちが、受け取る人にちゃんと伝わること
これは、まさにエルメスが大事にしている「変えないことの価値」と、根っこは同じです。違うのは、規模と、それを言葉にして伝えているかどうか、それだけなのです。
中小企業の経営者の方へ
この話は、貼り箱に限った話ではありません。
町の工場、地方の食品メーカー、家族で続けてきた小売店――「うちには歴史なんてない」と思っている経営者の方でも、実は必ず何かしらの「積み重ねてきたやり方」を持っています。それを、次のどちらとして扱うかで、未来は大きく変わります。
- 「昔からやっているだけのこと」として、値段に反映させないまま埋もれさせるか
- 「これだけは変えていない、という誇り」として、言葉にして、お客様に伝えていくか
エルメスと日本メーカーの利益率の差は、才能の差でも、規模の差でもありません。自分たちの歴史を、値段の理由として語れているかどうか、その差だと私は思っています。
大手ラグジュアリー企業だけの特別な話ではありません。小さな会社にも、小さな箱にも、歴史は確かに宿っています。それをどう言葉にして届けるか ―― それこそが、これからの中小企業に求められる、一番大事な仕事なのではないでしょうか。

では、その「言葉にする」を誰が形にするのか
ここまで読んでいただいて、こう思われた方もいるかもしれません。
「歴史を言葉にして伝える、というのは分かった。でも、具体的にどうやって?」
私たちがずっと考えてきたのは、まさにこの問いです。そして辿り着いた一つの答えが、箱そのものに、その役割を担わせるということでした。
会社案内やホームページで「私たちの歴史」「私たちのこだわり」を語ることは、もちろん大切です。ただ、言葉での説明は、読んでもらえて初めて伝わります。忙しいお客様が、隅々まで読んでくれるとは限りません。
一方で、パッケージは違います。
お客様が商品を手にした瞬間、まだ何も読んでいないうちから、箱は語り始めています。持ったときの重み、蓋を開けるときの手応え、貼り合わせの継ぎ目の丁寧さ —— それら一つひとつが、「この会社は、細部まで手を抜かない会社だ」ということを、言葉より先に伝えてしまうのです。エルメスが職人の手仕事そのものを商品体験に組み込んでいるのと、実は同じ構造です。
私たち村上紙器工業所は、1952年の創業から一貫して、この「貼り箱」という手仕事にこだわり続けてきました。私たちが大切にしている考え方に、「意思を運ぶ箱」という言葉があります。箱は単に中身を守るための入れ物ではなく、作り手の想いを、開ける人の手元まで運び届ける役割を持っている —— そう考えているからです。

良いモノを作れば売れる時代は終わった。品質を「高価格の説得力」に変えるメッセージの作り方
だからこそ私たちは、貼り箱を「消耗品としての梱包資材」ではなく、ブランドという資産への投資として捉えていただきたいと考えています。
これは決して精神論の話ではありません。
- 同じ商品でも、箱の質感一つで「贈り物として選ばれるかどうか」が変わる(=購買率に直結する)
- 箱を開ける体験がSNSでシェアされ、広告費をかけずに認知が広がる(=マーケティングコストの圧縮)
- 「あの箱の会社の商品だから」という理由でリピートされ、価格競争から抜け出せる(=利益率の改善)
冒頭の表で見た通り、歴史を言葉と体験に変換できている企業は、価格競争に巻き込まれず、高い利益率を維持しています。それは大企業だけの特権ではなく、パッケージひとつからでも始められる話だと、私たちは考えています。
自社の歴史や想いをどう伝えればいいか分からない、価格競争から抜け出したい —— そう感じている経営者の方は、一度、自社の商品を包むパッケージを見直してみてください。
そこにはまだ言葉にできていない、貴社だけの物語が眠っているかもしれません。
中小企業経営者・マーケティング担当者によくあるご質問(FAQ)
Q1. 良い商品を作っている自信はあるのですが、どうしても価格競争に巻き込まれてしまいます。何を変えればいいのでしょうか?
A. 多くの日本の素晴らしい企業が直面しているお悩みです。原因は、商品の良さを「安心・安全」「昔ながら」といった“守りの言葉”だけで伝えてしまっていることにあります。 エルメスが実践しているように、自社のこだわりや手間暇を「だからこそ、高くても買いたい」と思わせる“攻めの価値”に翻訳して伝える必要があります。機能ではなく、商品に込められた「意味」をお客様に届ける視点を持つことが、価格競争から抜け出す第一歩です。
Q2. 「歴史が価値になる」ことは分かりましたが、うちの会社には誰もが知るような特別な伝統やブランド力はありません。それでも可能ですか?
A. もちろん可能です。大企業のような華々しい歴史である必要はありません。 規模の大小に関わらず、「長年変えずに守り続けてきた手順」や「職人のちょっとした手間の掛け方」が、どの中小企業にも必ず眠っています。それを「単なる昔からの習慣」として埋もれさせるか、「これだけは妥協しないという誇り」として提示するか。貴社にとっての当たり前の中にこそ、お客様の心を動かす独自のブランド価値が隠れています。
Q3. パッケージにコストをかけると、その分だけ利益が減るのではないですか?
A. 箱にかけたお金が、そのまま売上に変わる保証はありません。それを約束する会社があれば、逆に疑ってください。ただ、見るべき数字が違うと思っています。多くの会社は「箱のコスト」を見ます。100円の箱を80円にできないか、と。でも本当に見るべきは、「その箱があることで、値引きを断れるかどうか」です。箱を20円安くして得られるのは、1個あたり20円。
パッケージを変える(従来の箱代+1,000円)と、ブランド資産価値が+2,000円?
ここに、商品単価2万円の高級コスメ商品があるとします。
A社は、単価@500円の比較的簡易なパッケージ。B社は、単価@1,500円の高級な貼り箱を採用しました。しかし、その箱が高級感とブランドイメージを正しく伝え、そのブランドの信頼感によって販売価格を「+5,000円(=25,000円)」に設定できたとしたらどうでしょう。パッケージの追加投資1,000円に対して、利益増加は5,000円。ROI(投資対利益率)は+400%になります。
Q4. 小ロットでも相談できますか? いきなり大量に作る勇気はありません。
A. その慎重さは、正しいと思います。貼り箱は職人の手仕事なので、機械で打ち抜く量産箱とはコストの構造が違います。小ロットにすると1個あたりの単価は上がりますが、「まずは主力の1商品だけ、テストマーケティングとして100個だけ」で試すことは、投資判断としてはむしろ現実的です。具体的なロット数と価格は、商品のサイズ・仕様で大きく変わります。図面がなくても、現物を1つお持ちいただければ、その場で概算をお伝えできます。
Q5. 何から始めればいいですか? 先にデザイン会社に相談すべきでしょうか?
A. 順番が、逆になりがちなところです。デザインは「翻訳」の仕事です。翻訳する元の文章がなければ、きれいなだけの箱ができあがります。だから最初にやっていただきたいのは、社内で1時間でも時間を取って、「うちがこれだけは譲っていないこと」を3つ書き出してください。
工場の人に聞いてください。恐らく「え、そんなの当たり前ですけど」と言われます。その「当たり前」こそが、あなたの会社の歴史です。その3行を持って来ていただければ、私たちはそれを形にする話ができます。デザイナーが先か箱屋が先かより、その3行があるかどうかで、結果はまるで変わります。
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著者:村上紙器工業所 代表 村上 誠
大阪で三代続く貼り箱製造業を営み、パッケージを通してブランド価値を設計するパッケージコンセプター。30年以上、様々なお客様の課題解決の経験を活かして、パッケージデザインから顧客価値を提供します。
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