パッケージは経費か、資産か?|売上2割増の貼り箱事例に学ぶ「育つ箱」のつくり方
公開日:2026年09月17日(木)|ブランディング
決算前に箱代を削る前に。その判断で、3年分の積み上げを捨てていませんか
<Xでシェア> <Facebookでシェア>「箱代、もう少し削れないかな」。決算前に、そう考えたことはありませんか。中身は同じなのに、箱を変えたあと売上が約2割伸びた会社と、2割落ちた会社があります。分かれ目は、デザインの良し悪しではありませんでした。箱代を「消えるお金」で終わらせない条件をお話しします。

「箱代、もう少し削れないかな」
決算前に、そう考えたことはありませんか。
箱は、お客様が中身を取り出したら役目が終わるもの。そう見れば、箱代は「消えていくお金」です。削りたくなる気持ちは、よくわかります。
でも、同じ箱代でも、払うたびに消えていく会社と、払うたびに積み上がっていく会社があります。今日は、その違いについてお話しします。
箱を変えたら、売上が約2割伸びた
弊社がお手伝いした、業務用セキュリティ・ソフトウェアのパッケージ(貼り箱)の話です。
もともと貼り箱を使われていましたが、デザインはどこにでもある一般的なものでした。ブランドの立て直し(リブランディング)にあわせて、テーマを「上質感」に決めました。
「高級感」ではなく「上質感」です。キラキラさせるのではなく、シンプルで美しいこと。そこで、本のように開くブック式の箱にしました。黒い表紙に朱赤の箱、白い表紙にオレンジの箱。どちらにも、表紙と同じ色のスリーブ(筒状のカバー)をかぶせました。
この箱で市場に出したところ、新しいお客様が増え、売上が約2割、金額にして数億円伸びたとお聞きしています。
大事なのは、中身のソフトウェアは基本的に同じだということです。
正直にお伝えすると、このときは製品のホームページなども一緒に新しくしています。ですから「箱だけで2割伸びた」とは言えません。ただ、お客様が最初に手に取り、机の上に置き続けるのは箱です。「上質」という新しいイメージを一番近くで伝えていたのは、間違いなくこの箱でした。
逆に、箱を変えて売上が2割落ちた会社もある

アメリカのジュースブランド「トロピカーナ」の話です。
2009年、トロピカーナは主力商品のパッケージを新しいデザインに変えました。すると主力ラインの販売は1月1日から2月22日までに20%落ち、会社は発売から2か月もたたないうちに新デザインをやめると発表しました。 Bloomberg
こちらも、中身のジュースは同じです。変わったのは箱の絵だけ。それでも、いつもの箱が見つからなかったお客様は、別のブランドを買いました。
同じ「箱を変えた」なのに、なぜ真逆の結果になったのか
答えはシンプルです。
- ソフトウェアの会社は、もともと箱に「資産」がなかった。どこにでもある箱だったので、変えても失うものがありませんでした。
- トロピカーナは、長年使い続けた箱そのものが「資産」だった。お客様はロゴではなく、あの箱の見た目で商品を探していました。それを自分で捨ててしまったのです。
だから、ルールはこうなります。
資産がないなら、つくる。資産があるなら、守る。

マーケティングの研究でも、同じことが言われています。オーストラリアのEhrenberg-Bass研究所のジェニー・ロマニュク教授は、色やフォント、ロゴなどがバラバラなことがブランド資産づくりの一番の敵であり、パッケージの変更は避けるべきだと述べています。 Marketingscience
箱は、つくった日に資産になるのではありません。変えずに使い続けた年数だけ、資産になっていきます。
ただし「資産」といっても、帳簿には載りません
ここは誤解が多いので、はっきり書いておきます。
国際的な会計のルール(IAS 38)では、自社で育てたブランドは、維持の費用と区別しにくいため、資産として計上されません。 ifrs
つまり、箱代は帳簿の上では「経費」のままです。ここでいう「資産」とは、お客様の頭の中に積み上がっていくもののことです。
私は、こう言い換えるのがいちばん正直だと思っています。
「箱代は、使い続けるほど効いてくる経費である」
(日本の会計や税金での具体的な扱いは、顧問の税理士さんにご確認ください。)
あなたの箱は「資産」になっていますか?
3つのチェック
- ロゴを手で隠しても、自社の箱だとわかりますか?
わからなければ、まだ資産はありません。「つくる」段階です。 - その箱を、3年以上変えずに使っていますか?
毎年のように変えているなら、積み上がる前に崩しています。 - お客様がその箱を見て、何を思い出すか言えますか?
「上質」「誠実」「職人の手」。一言で言えるなら、それが守るべき中身です。
「育つ箱」をつくるために、最初にやること
デザイン会社や箱屋に相談する前に、紙を一枚用意してください。そして、自社が絶対に譲っていないことを3つ書き出してください。
箱は、その3つを形にする器です。ここがはっきりしていない箱は、見た目がきれいでも、何年使っても育ちません。
いきなり大量につくる必要もありません。まずは少ない数でつくり、お客様の反応を見る。そして、よいと思えたら、あとは変えずに使い続ける。地味ですが、これがいちばん確実な道です。
おわりに
箱は、しゃべりません。でも、お客様の机の上で、棚の中で、毎日あなたの会社のことを伝え続けています。
その箱代を「消えていくお金」にするか、「積み上がっていくお金」にするか。決めるのは、デザインの良し悪しよりも、使い続ける覚悟なのだと思います。
よくあるご質問
Q1. うちの箱は、今すぐ変えたほうがいいですか?
A1. 3つのチェックで「ロゴを隠すとわからない」なら、変える価値があります。わかるなら、変える前に、何が覚えられているのかを確かめてください。変えるとしても、覚えられている部分は残すのが原則です。
Q2. 箱を変えれば、売上は必ず上がりますか?
A2. お約束はできません。ご紹介した事例でも、ホームページなど全体のリブランディングを一緒に行っています。箱は、ブランド全体の考え方が決まっているときに、いちばん力を発揮します。
Q3. 小さな会社でも「資産になる箱」はつくれますか?
A3. つくれます。大きな会社との違いは予算だけではなく、同じ箱を使い続けられるかどうかです。むしろ決める人が少ない小さな会社のほうが、ブレずに続けやすいと私は感じています。
著者:村上紙器工業所 代表.村上 誠
大阪で三代続く貼り箱製造業を営み、パッケージを通してブ
ランド価値を設計するパッケージコンセプター。30年以上、
様々なお客様の課題解決の経験を活かして、パッケージデザ
インから顧客価値を提供します。
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