老舗リブランディングは「捨てない」。神戸屋に学ぶパッケージの役割

公開日:2026年10月24日(土)|ブランディング

主力事業を失ったとき、会社は何を拠りどころにするのか

売上の7割を手放した老舗は、何を武器に再出発したのか。創業108年の神戸屋は、新しいものを足すより、すでにある資産に今の名前を付け直しました。大きな投資ができない中小企業こそ使える「捨てないリブランディング」を、パッケージの視点から解説します。

出典:株式会社神戸屋

箱屋が、パン屋のニュースに足を止めた理由

老舗のリブランディングで一番難しいのは、新しいものを足すことではありません。「何を残し、どう言い換えるか」です。

2026年、創業108年の神戸屋さんが、約40年ぶりにロゴを変えました。掲げた言葉は「Be Playful」。大阪の町工場で貼り箱をつくる私にとって、このニュースは他人事ではありませんでした。

村上紙器工業所は1952年の創業で、私は三代目です。10数年前、町工場で「ブランディング」を口にしたとき、同じ製造業の仲間から「何か、カッコつけてる」と囁かれたことがあります。だからこそ、100年を超える会社が「遊び心」を真正面から掲げた覚悟に、箱屋として惹かれました。

この記事では、公開情報で確認できた事実だけをもとに、神戸屋さんの事例を「パッケージ」の目で読み解きます。中小企業や家業を継いだ経営者の方にこそ、読んでいただきたい内容です。

神戸屋に何が起きたのか

神戸屋さんは、売上の約7割を占めていた事業を手放したあと、「第二の創業」としてブランドをつくり直しています。

時期出来事
2026年8月旗艦店「神戸屋キッチン アトレ恵比寿店」をリニューアル。Instagramでファン参加型の「スコーン新フレーバー総選挙」を開始
2026年7月約40年ぶりのロゴ刷新と、新ステートメント「Be Playful」を発表
2023年当時の売上の約70%を占めた包装パン事業を譲渡。冷凍生地と直営店に経営資源を集中
1918年創業

自社の「当たり前」こそ、一番真似されにくい資産になる

「Be Playful」の核にあるのは、「食の、新しいあたりまえをつくっていく」という姿勢です。注目したいのは、この言葉の出どころです。創業者が初めて外国人の食べるパンを見たときの、未知への好奇心と挑戦心。それを「遊び心」という言葉で掘り起こした、と説明されています。

つまり「遊び心」は新しく足した飾りではありません。108年前からあったものに、今の名前を付け直したのです。

捨てずに、言い換える

神戸屋さんのリブランディングで一番見事だと思うのは、過去の資産を何も捨てていないことです。すべて、意味を与え直して使い続けています。

受け継いだものどう言い換えたか
ロゴの「鷲」パンを焼く火と挑戦を表す「炎」を重ねた
歴代店舗の「白いタイル」パンの焼き色のようなベージュの特注タイルに
過去のロゴにも使った「真鍮」ショーケースや照明の素材に
パンづくりの道具「めん棒」その材料であるチェリー材を、ショーケースや照明に

老舗のリブランディングでよくある失敗は、「古いものを全部捨てて、オシャレにする」ことです。それをやると、長年のお客様は「知らない店になった」と感じて離れます。新しいお客様には、他のオシャレな店との違いが伝わりません。

私はこの仕事を「価値の翻訳」と呼んでいます。その会社にもうあるものを、今のお客様に届く言葉と形に訳し直すことです。神戸屋さんの事例は、そのお手本のような仕事だと感じます。デザインを飾りではなく「思想を目に見える形にするもの」と位置づけている点も、まったく同感です。

※AIによって生成した画像です。

創業108年の神戸屋が40年ぶりにコーポレートロゴ刷新、新ステートメント「Be Playful」を掲げたリブランディングを発表


パッケージは、店の外まで届く

ロゴ、店舗、ユニフォーム。神戸屋さんの事例を「お客様との接点」として並べると、箱屋として改めて気づくことがあります。ブランド体験の中で、パッケージだけが「店の外」へ持ち帰られる、ということです。

  • 店の空間:そこに来た人にしか届かない
  • ユニフォーム:接客のその瞬間にしか届かない
  • パッケージ:電車の中、職場の机、手土産を渡した相手の家まで届く

特に手土産になる商品は、この力が大きい。店に来たことがない人が、最初に出会うブランドは、店でもロゴでもなく、手にした箱や袋なのです。私が箱を「意思を運ぶ箱」と呼ぶのは、そのためです。

「Be Playful」をパッケージで表現するなら、私は派手な柄よりも「開ける瞬間の小さな驚き」を考えます。推測ですが、遊び心は見た目の賑やかさより、体験の中に仕込んだ方が、老舗の品格を崩しません。

中小の老舗が、明日からできる3つのこと

神戸屋さんのような大きな投資は、中小企業には難しい。でも考え方はそのまま使えます。お金をかける前に、まずこの3つから始めてください。

  1. 「捨てられないもの」を書き出す 創業者の口ぐせ、昔からの色、店の素材、使い続けている道具。当たり前すぎて気づかないものほど、実は他社には真似できない資産です。
  2. それを今の言葉に訳す 神戸屋さんは「創業者の好奇心」を「Be Playful」に訳しました。古い話をそのまま語るのではなく、今のお客様が「自分ごと」に感じられる言葉にすることが大切です。
  3. お客様が持ち帰るものから変える 店舗の改装は大きな投資です。でもパッケージなら、商品ひとつ、小さなロットから試せます。店に来ない人にまで届くので、中小企業にとっては一番効率のいい入口です。

順番を逆にしないことが大切です。「箱から変えよう」といきなりデザインを変えても、何を伝えるかが決まっていなければ、ただのお色直しで終わります。私がお客様との打ち合わせで、箱の仕様より先に「どんなブランドにしたいか」を伺うのは、そのためです。

遊び心は、真剣さの上にしか咲かない

「遊び心」と聞くと、軽い言葉に聞こえるかもしれません。でも、売上の7割を手放してまで自分たちの足場を選び直した会社が掲げた言葉です。そこにあるのは、軽さではなく覚悟だと私は受け取りました。

職人の世界でも同じです。基本が身についている人だけが、少し崩して「面白い」をつくれます。老舗の遊び心も、長い歴史の上にしか咲きません。

あなたの会社にも、まだ名前の付いていない「遊び心」や「意地」があるはずです。それを見つけて、お客様の手に渡る形にする。その最初の一歩を、箱から一緒に考えてみませんか。

【クリエイティブチーム】

老舗パンメーカー・神戸屋の約40年ぶりとなるコーポレートリブランディング(新ブランドステートメント「Be Playful」の策定、新ロゴマーク、ユニフォームや店舗デザインの刷新など)を手掛けたのは、ブランディングデザイン会社 アレンス株式会社(ARENCE Inc.) のクリエイティブチームです。

中心となった主なクリエイターです。

  • 八木 彩(やぎ あや):クリエイティブディレクター/アートディレクター(アレンス代表取締役)電通で多数の企業広告やブランディングに携わった後、2023年に独立。著書に『デザインを、経営のそばに。』など。本プロジェクトでは、経営陣との対話を通じたブランドコンセプト開発から、シンボルマーク(情熱の炎を宿したワシのモチーフ)、各種VI、店舗グラフィック、ユニフォームのデザイン刷新までをトータルで統括しています。
  • 青田 剛(あおた つよし):プランナー/空間ディレクター(アレンス取締役)建築分野のバックグラウンドを持ち、理念策定やコンセプト開発、空間ディレクションなどを担当。店舗空間設計やベーカリースタンド(「THE STAND BY KOBEYA」など)の展開に伴走しています。

神戸屋が2023年に包装パン事業を山崎製パンへ譲渡し、「冷凍生地と直営事業」へ集中して第二の創業を果たす節目において、約2年間にわたり経営・デザインの両面から伴走してブランド再構築を行いました。


よくある質問

Q1. 神戸屋の「Be Playful」とはどういう意味ですか?

A1. 変化を恐れず、自由な発想と遊び心で食文化をつくっていく、という姿勢を表した言葉です。創業者が初めて外国のパンに出会ったときの好奇心が由来だと説明されています。

Q2. 老舗がリブランディングで失敗しやすいのはどんなときですか?

A2. 過去の資産を捨てて、流行りのデザインに変えてしまうときです。常連のお客様が離れ、新しいお客様にも違いが伝わらない、という両方を失う結果になりがちです。

Q3. 中小企業でも、パッケージからリブランディングを始められますか?

A3. 始められます。店舗改装より投資が小さく、商品ひとつから試せます。ただし、先に「何を残し、何を伝えるか」を決めてからです。

Q4. 遊び心のあるパッケージは、高級感と両立できますか?

A4. 両立できます。派手な柄ではなく、開ける順番や中の見せ方など、体験の中に小さな驚きを仕込む方法があります。

著者:村上紙器工業所 代表 村上 誠
大阪で三代続く貼り箱製造業を営み、パッケージを通してブランド価値を設計するパッケージコンセプター。30年以上、様々なお客様の課題解決の経験を活かして、パッケージデザインから顧客価値を提供します。
▶  著者プロフィール&会社概要&メディア掲載

<お問い合わせ>は、こちらのページへ。
<目的から作例を探す>は、こちらのページへ。
<作例を写真で探す>は、こちらのページへ。
<お客様インタビュー>は、こちらのページへ。
<クリエイターズネットワーク>は、こちらのページへ。

まずは、ちょっと電話で聞いてみたい時は06-6653-1225 担当:村上誠まで。9~18時(12~13時は除く)土日祝日は休み。

パッケージの課題やお悩みは?

私たちの工場では、貼り箱を「早く・安く・大量に」作ることを目的としていません。私たちはモノとしての箱づくりではなく、パッケージを通してブランドの「意味」をつくる仕事です。

こちらのフォームより、ご相談ください。

06-6653-1225

ブランドの記憶資産をつくるパッケージ

化粧箱、ギフトボックスの課題、ちょっと話を聞いてみたいという方は、気軽にお電話ください。


担当:村上 誠
営業日:月〜金曜日(休日:土日祝日)
営業時間:9〜18時(昼12〜13時は除く)

ー Follow us ー