プロの私が、言葉を失った箱がある ― 日経デザイン取材、13年前の記憶

公開日:2026年07月03日(金)マーケティング

iPhoneの箱を解剖して見えた、ファンを熱狂させる「究極の顧客体験」の作り方

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20年来のプロが分解して手が止まった、iPhoneの箱。13年前の日経取材秘話から見えてくるのは「わからないことを認める強さ」と「捨てられる箱にこそ本気を出す」執念。あなたの商品にも、まだ掘り起こされていないこだわりが眠っているかもしれません。

先日、Apple製品の専門メディア『Mac Fan Portal』の取材からMacの外箱について改めて語らせていただきました。(単なる「入れ物」ではない。Macの“外箱”に秘められた「究極のブランド体験」とは?)取材のあと、ふと思い出したことがあります。

実は、私がアップルについて取材していただいたのは、あのときが初めてではありませんでした。

13年前――2013年。私は同じように、iPhoneの箱と向き合って言葉を失っていたのです。

当時、私はこんな投稿をしていました。

先日、知人のお二人から「iPhone」の箱を譲っていただきました。
そしてついに、分解してみました。すると、驚愕の事実がわかりました。写真は、箱の側面部分です。これだけではちょっとわかりにくいですが、謎が解けました(笑)。まずは「貼り箱」の生地(ボール紙)の構造ですが、一般的な貼箱は通常天面(もしくは底面)の角は、ボール紙の厚み分だけ「面取り」したように「斜め」になります。しかし、ご存知のように「iPhone」の箱は直角です。
これは、構造的には可能で、ボール紙を「二重構造」にすれば出来なくはありません。しかしそれとも違い側面部分(枠)は「Vカット」、それに天面(底)のボール紙をこれも内と外から挟んで、直角な箱にしていました。
これは、「なるほど!」という感じ(笑)。しかし凄かったのは、「包み紙」です。言葉で説明するのが難しいですが、通常は側面に一旦「紙の端」を巻き込んで、その上からまた対角面をかぶせるように貼るため、「紙の端(”チンピラ”と呼ぶことも)」との境目が上から観るとわかります(紙厚のため)。しかし、この箱にはそれがありません。開けてビックリ。”チンピラ”は通常、左右両端とも15mm程度ですが、この箱は左右とも両端まで延びています。そのため紙厚の差が出ないので、境目がないように見えてとても「スッキリ(美しく)」なるのです。
これには、さすがに驚きました。我々の常識をはるかに越えたやり方です。問題は、これをどうやって作っているかです。これも業界の常識的に考えると、手作業に思えます。しかし、製作ロットは数千万個単位。いくら「中国」とはいえ、「貼り」を全部手作業というのは想像がつきません。
もしかするとこの箱のために「専用機械」を作って貼っているのか? それとも、一部機械を使いながら最終的には手作業による人海戦術なのかわかりません。作り方をもし知っている方は、教えて欲しいくらいです。いずれにしろ、業界の常識をはるかに越えた「ものづくり」といわざるを得ませんでした。この経験を与えていただいたお二人(箱をいただいた)に感謝致します。それにしても、アップルの恐ろしいまでの「美の追求」と「こだわり」に脱帽です!!(2012年11月1日:村上誠、facebookの投稿より)

※この時の取材が日経デザインに掲載され、その後日経新聞電子版に掲載されました。


きっかけは、ただのFacebook投稿でした

あれは本当に、些細なことがきっかけでした。

知人からiPhoneの空き箱を譲ってもらい、貼り箱屋の性分で分解してしまったのです。その様子を、なんの気なしにFacebookに書きました。「これはすごい箱だ」というような、たわいのない投稿だったと思います。

すると、それを日経デザイン誌の記者さんが見つけてくださって、取材のご依頼をいただきました。狙ったわけでも、仕込んだわけでもありません。ただ、自分が本当に驚いたことを、正直に発信しただけでした。

今でも思います。発信するということは、こういうことなんだな、と。

分解して、手が止まりました

貼り箱という仕事を、当時ですでに20年近くやっていました。菓子箱、宝飾品の箱、高級オーディオの箱などなど。オーダーメードで、様々な貼り箱を手がけてきた自負がありました。

だから、正直なところ、iPhoneの箱くらい、分解すればすぐに構造がわかるだろうと思っていたんです。

でも、違いました。

箱を開いた瞬間、手が止まりました。「これまで数多くの貼り箱を製作してきたが、こんな構造の箱を見たのは初めてだ」――取材のとき、私は記者さんにそう答えたのを覚えています。そして、もう一つ、思わず口にした言葉がありました。「これが1年に数千万個(実際は1億台以上)も大量生産されているとは、にわかに信じがたい」。

20年近くこの仕事をしてきたプロが、ここまで素直に驚けるものに出会えたこと。今振り返れば、それ自体が驚きの経験でした。

「わからない」ことの方が、多かった

取材では、箱の角のつくり方、紙の貼り合わせ方、内側の折り返しの精度について、できる限り分析させていただきました。専門的な話は、ここでは省きます。プロの職人同士でなければわからない領域の話ですし、何より、細部を語れば語るほど、本質から遠ざかってしまう気がするからです。

一つだけ、はっきり言えることがあります。

「アップルが作る箱の量を考えると、一つ一つ手貼りに頼ることは考えにくい。しかし、当時の一般的な機械では、この箱を作るのは不可能じゃないか?」――そう答えた記憶があります。

つまり、私にも完全にはわからなかったのです。

わからないことを、わからないと言う。プロとして、それは決して恥ではないと、今なら思えます。むしろ、わかったふりをする方が、よほど恥ずかしい。あの取材は、私にそれを教えてくれました。

13年経って、変わらなかったもの

Mac Fan PortalでMacの外箱について改めて語らせていただいたとき、実は同じ感覚を覚えました。「開封の儀式」という言葉、フタが数秒かけて滑り落ちる設計。あの体験の奥にある執念は、iPhoneの時代から、何一つ変わっていません。

アップルにとって、箱は最後まで手を抜いていい場所ではなく、むしろ「捨てられるとわかっているものにこそ、本気を出す」場所なのだと思います。13年前も、今も。

そしてそれを間近で、実際に自分の手で分解して確かめてきた貼り箱屋は、日本でもそう多くはないはずです。それは、ちょっとした誇りでもあります。

大きな会社の真似はできません。でも、姿勢は真似できる

「うちには、アップルほどの予算も、技術力もない」――多くの経営者の方が、そう思われると思います。当然です。私も、あの箱と同じものを、今日つくれと言われたら、正直、簡単にはできません。

でも、あの日学んだのは、技術の差だけではありませんでした。

「わからないところまで、とことん突き詰める」という姿勢そのものは、規模に関係なく、誰にでも選べる態度です。妥協せず、最後まで「これでいいのか」と問い続けること。それは、資本力の勝負ではなく、覚悟の勝負です。

貴社の商品にも、きっと「ここまでやるか」と言われるような、こだわりの余地が眠っているはずです。それを一緒に掘り起こすお手伝いができればと思っています。

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著者:村上紙器工業所 代表 村上 誠
大阪で三代続く貼り箱製造業を営み、パッケージを通してブランド価値を設計するパッケージコンセプター。30年以上、様々なお客様の課題解決の経験を活かして、パッケージデザインから顧客価値を提供します。
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