パッケージとの関係:ブランドはどうして記憶に残るのか?
公開日:2025年10月30日(木)|ブランディング
パッケージデザインがブランド価値を高める理由:記憶に残る箱で利益を創る

ブランドが消費者の記憶に残る理由を、ストーリーテリングや心理学の視点から読み解いていきます。
そして、ブランドに商品パッケージがどのように関わるのか?
パッケージ/パッケージデザインが、ブランドの記憶にどう影響するかを具体的に掘り下げてみます。
ブランドが消費者の記憶に残る理由:ストーリーテリングの視点から
まず、ストーリーテリングの観点から。人間は物語が大好きです。なぜなら、物語は情報を単なる事実の羅列ではなく、感情や体験として脳に刻み込むからです。
ブランドが記憶に残るのは、ただ製品を売るのではなく、ストーリー/物語りを売っているからです。
- 感情のつながりを作る:良いブランドは、消費者の心に響く物語を提供します。
例えば、Appleのストーリーは「革新と創造性」。スティーブ・ジョブズの「Think Different」キャンペーンは、ただのコンピューターじゃなく、反逆者のライフスタイルを語っています。
これで消費者は「自分も特別だ」と感じ、ブランドを忘れられなくなるのです。
- 一貫したナラティブ:ストーリーは一貫性が命。
Nikeの「Just Do It」は、努力と勝利の物語を繰り返し語ります。これが消費者の日常に溶け込み、ブランドを「自分の一部」みたいに記憶させるから。
散漫なストーリーだと、すぐに忘れられるのです。
- 体験の共有:ストーリーはシェアされやすく、消費者がブランドの物語をSNSで語ると、記憶が広がります。
Coca-Colaのクリスマスキャンペーンは、家族の温かさをストーリー化して、世界中で共有され、これでブランドが「文化の一部」になるのです。
要するに、ストーリーテリングはブランドを「ただの商品」から「人生の伴走者」に変えるのです。記憶に残るブランドは、消費者の感情を揺さぶる物語りを構築しているのです。
ブランドが消費者の記憶に残る理由:心理学の視点から
次に、心理学の角度からみてみましょう。人間の脳は、情報を効率的に処理するためにいろんなトリックを使っています。ブランドが記憶に残るのは、これらの心理メカニズムを上手く活用してるからなのです。
- 感情記憶の強さ(アミグダラの役割):脳の感情中枢である(※)アミグダラが活性化すると、記憶が強化されます。ブランドが喜びや驚き、怒りなどの感情を引き起こすと、長期記憶に残りやすいのです。
例えば、Red Bullのエクストリームスポーツの広告は、アドレナリンを刺激して「冒険」の記憶を植え付けます。心理学的に言うと、感情的な体験は中立的な情報より3倍以上記憶されやすいです。
※アミグダラ(扁桃体:へんとうたい)とは、脳の側頭葉内側にあるアーモンド型の器官で、感情の処理、特に恐怖や不安に関わる情動反応と記憶形成に重要な役割を果たしています。外部からの脅威やストレス刺激を察知すると、闘争・逃走反応を引き起こす「情動の司令塔」として機能します。
- 繰り返しと馴染み効果(メレ暴露効果):何度も見たり聞いたりすると、好感度が上がるのです。これを「メレ暴露効果」と呼びます。ブランドが広告やロゴを繰り返し露出すると、消費者は「馴染みがある」と思って記憶します。McDonald’sの黄金アーチは、どこで見ても即座に思い浮かぶでしょ? これは繰り返しの力なのです。
- 認知バイアスを利用:人間はシンプルで一貫したものを好みます(認知的不協和を避ける)。ブランドが明確なイメージを築くと、脳がそれを「正しい選択」として記憶します。
例えば、Volvoの「安全第一」のイメージは、事故のニュースを見るたびに強化されます。アンカリング効果(最初の印象が基準になる)も大事で、初回の出会いが記憶の基盤になります。
- 社会的証明と所属欲求:マズローの欲求階層論で言うと、人間は所属したい生き物。
ブランドがコミュニティを作ると、消費者は「このブランドのファン」というアイデンティティを記憶します。大型バイクメーカーHarley-Davidsonのバイカー文化が、その典型例です。
心理学的に、記憶に残るブランドは脳の「ショートカット」を使います。
感情、繰り返し、バイアスを味方につけるのです。
パッケージ/パッケージデザインがブランドの記憶にどう関わるか?
さて、ここから本題のパッケージです。パッケージは、ブランドの最初の「顔」。
消費者が店頭で最初に触れる部分で、ここで失敗するとブランド全体が記憶に残りません。
ストーリーテリングと心理学の両方を、体現するツールなのです。
- 視覚記憶の起点として:人間の記憶の80%は視覚から来る(心理学的研究に基づく)。
パッケージのデザインが印象的だと、ブランドのストーリーを視覚的にアンカリング(最初に提示された情報に、その後の判断が無意識に引きずられてしまう心理現象)します。
例えば、Tiffanyの青い箱は「贅沢」の物語を一瞬で伝える。消費者は箱を見ただけでブランドを思い出します。パッケージが地味だと、脳が「無視」モードに入って記憶されないのです。
- 感情を喚起する触媒:パッケージは触感や視覚で感情を刺激します。心理学の「ハロー効果」(最初の印象が全体を決める)で、パッケージが魅力的だとブランド全体が好印象に記憶されるのです。
Oreoの遊び心あるパッケージは、子供時代の楽しさをストーリーとして呼び起こし、これで消費者は「楽しいブランド」として記憶するのです。
- 差別化と繰り返しの強化:棚に並ぶ中で、パッケージが目立つとメレ暴露効果が働きやすいです。独特の形や色(例: Pringles:ポテトチップスのプリングルズの筒状パッケージ)は、繰り返し見るたびにブランドを強化します。
ストーリーテリング的には、パッケージにブランドのナラティブを込めます。
例えば、Patagoniaエコ素材パッケージは「環境保護」の物語を語り、消費者の価値観に響いて記憶に残ります。
- 購入後の記憶定着:パッケージは家に持ち帰るから、日常で繰り返し露出します。
心理学の「プライミング効果」(関連刺激で記憶を活性化)で、キッチンに置かれたパッケージがブランドを思い出させ、リサイクルしやすいパッケージなら、ポジティブな感情が加わって記憶が強まります。
パッケージ/パッケージザインがブランドの記憶に直結するのは、視覚・感情・繰り返しがあるからです。あまり良くないパッケージは、ブランドを「忘れやすいもの」に変えるけど、良いパッケージは「忘れられないアイコン」にします。
もし、あなたが企業の企画担当者だとしたら、パッケージを「ブランドのミニストーリー」として設計すること。色、形、素材すべてが記憶を操作するツールになるのです。
パッケージ/パッケージザインは、ブランドと顧客をつなぐコミュニケーション・ツール。
その本来の役割は、「ブランドイメージを伝える」「世界観を表す」、そして「記憶に残るパッケージで売上を伸ばす」ことです。
パッケージの最も大切な役割を、理解していただけましたか?
パッケージは単なる包装資材(=コスト)ではなく、重要な役割を担ったブランド投資です。
そして、この投資が積み重なってブランドが構築されていきます。
それがやがてあなたのブランド資産となり、売上と利益をもたらしてくれるのです。
ここで、具体的なブランド事例を示してみましょう。
各ブランドの実際のパッケージデザイン要素(色、形、素材、テキスト)を分解し、どう記憶に残るかを心理学・ストーリーテリング視点でみてみます。
1. Tiffany & Co. – ロビンズ・エッグ・ブルー(コマドリのタマゴ)ボックス

◆ 具体デザイン要素:
- 色:Pantone 1837(柔らかいターコイズブルー)、箱全体の95%を占める。リボンは白サテン。
- 形:正方形の硬質紙箱、蓋がぴったり閉まる。
- 素材:高級マット紙、内部は白いクッション。
- テキスト:外側に「Tiffany & Co.」のシンプルエンボスロゴのみ。
◆ 記憶への影響(心理学・ストーリー):
- 心理学:色が感情記憶を刺激(アミグダラ活性化)。青は「信頼と贅沢」を連想、視覚記憶の80%を支配。
- ストーリー:「永遠の愛とサプライズ」の物語。開封時の喜びがハロー効果でブランド全体を輝かせる。
- 結果:箱だけSNS投稿され、ブランド想起率90%以上(Interbrand調査)
◆ 提案:
高級品なら、1色支配のパッケージが効果的。コスト的には一般的な箱より高価だが、その分ブランド感が高まる。
2. Apple – iPhone白ボックス

◆ 具体デザイン要素:
- 色:純白(#FFFFFF)、光沢なしマット仕上げ。
- 形:薄型長方形、ミ・フタの2ピース構造。
- 素材:リサイクル紙100%(2025年現在、FSC認証)。
- テキスト: iPnoneロゴ、裏面に「Designed by Apple in California」。
◆ 記憶への影響:
- 心理学:ミニマリズムが認知負荷を減らし、単純接触効果で「クリーン」イメージ定着。
開封プロセスがドーパミン放出? - ストーリー:「シンプルな革新」の体験物語。箱が製品の延長線。
- 結果:開封動画がYouTubeで数億回?再生、ブランド忠誠心アップ。
◆ 提案:
テック/コスメなら、内側にQRコードでストーリー動画リンク。エコ素材で2025年トレンド対応、コスト抑えつつ差別化など。
3. Coca-Cola – コンツアーボトル(ガラス/プラスチック版)

◆ 具体デザイン要素:
- 色:赤ラベル(#ED1C24)に白スクリプトロゴ。
- 形:曲線ウエスト(1915年特許)、握りやすい。
- 素材:2025年は植物由来プラスチック75%(rPET)。
- テキスト:「Coca-Cola」筆記体のみ、シェアボトル版は名前パーソナライズ。
◆ 記憶への影響:
- 心理学:触覚記憶(暗闇で認識可能)、アンカリングで「爽快」の初印象固定。
- ストーリー:「幸せの共有」物語。曲線がボディラインのように親しみ。
- 結果:ボトル形状認識率99%、グローバル売上シェア40%維持(Beverage Digest 2025)。
◆ 提案:
飲料なら、形状特許が狙い目。パーソナライズでSNSシェアを取る。プラスチック悩みなら、植物素材にシフト。
4. Boxed Water Is Better – 紙パック入りの水(米国)

◆ 具体デザイン要素:
- 色:白基調に黒テキスト、緑の木イラスト。
- 形:直方体、ストロー付きキャップ。
- 素材:紙92%(森林認証)、リサイクル率100%。
- テキスト:「Boxed Water is Better」「75% Paper, 100% Recyclable」。
◆ 記憶への影響:
- 心理学:社会的証明(エコ選択で優越感)、感情記憶で「地球貢献」。
- ストーリー:「プラスチック撲滅」の環境物語。シンプルさが信頼感。
- 結果:売上3年で5倍(2022-2025、会社発表)、エコ水市場シェア15%。
◆ 提案:
食品/飲料のエコ悩みなら、紙100%へ。ラベルに「植樹数」表示でストーリー強化、プレミアム価格正当化。
5. Aesop – アンバーボトル

◆ 具体デザイン要素:
- 色:ダークブラウンガラス、黒いキャップ。
- 形:円筒、容量表示のくぼみ。
- 素材:ガラス(リユース推奨)、ラベルは防水紙。
- テキスト:サンセリフフォントで製品名・成分のみ、詩的な説明文。
◆ 記憶への影響:
- 心理学:質感が信頼記憶、馴染み効果で「プロ級」。
- ストーリー:「植物由来の贅沢」物語。ボトルがアート作品。
- 結果:プレミアムスキンケア売上年20%成長(L’Oréalグループ報告2025)。
◆ 提案:
コスメなら、ガラス+ミニマルラベル。成分ストーリーをテキストで、棚映え抜群。高価だが小容量から。
ここで、Aesopのパッケージについて分析をしてみましょう。
1. パッケージデザインの特徴/要素
素材・容器
- 多くの製品にアンバーガラス(茶系のガラス瓶)を使用。遮光性があり、薬剤瓶・アポセカリー(薬局)っぽい雰囲気を演出しています。
- プラスチックを使う場合でも、リサイクル素材(rPET)に移行しており、2025年の目標地点に対して既に達成または超過しているという報告があります。
- 箱・外装・ギフトセットパッケージでも、華美な印刷・装飾を避け、あえて「余白」「未装飾」感を残すデザインを採っています。
色・印刷・ラベル
- 色使いは極めて抑制的。ベージュ、クリーム、茶、黒白などのアーストーン+モノクロラベルが中心。派手な色やグラフィックは排除。
- タイポグラフィは読みやすさ重視。無駄な装飾が少なく、説明的なラベル(成分・使い方など)がそのままデザイン要素になっています。
ブランド統一性・アイデンティティ
- ボトルの形状、ラベルの配置、フォント、色調などが非常に一貫しており、棚や店頭で「あ、Aēsopだ」と瞬時にわかる設計です。
- 店舗デザイン、WEB、カタログ、パッケージすべてにおいて、この “余白を残す・静かな印象” が貫かれており、ブランド体験全体が統合されています。
2. 何故、このデザインが有効か(機能+戦略)
次に、上記の要素がなぜビジネスとして、ブランド戦略として有効かを考えます。
(A)機能的な意味
- アンバーガラス:中身(化粧品・スキンケア)の品質保持・紫外線対策として機能的。
- リサイクル素材・簡素構造:環境配慮を実装。論理的に“無駄な装飾を省く=コスト&資源効率”という面もあります。
- 説明的ラベル:ユーザーが中身や使い方を即把握できる。過剰な装飾を排除することで「信頼性・専門性」の印象を与えています。
(B)ブランド戦略的な意味
- ミニマル/控えめなデザイン=高級感・静けさ・品位を演出。多くの美容ブランドが「豪華・派手」方向に行く中、逆を行くことで差別化。
- 統一されたデザイン言語=ブランド認知の加速。棚でバラバラに見えず、ブランドとして “まとまり” がある。これは “ブランド体験” を強化します。
- 環境配慮・素材選択=価値観訴求。現代の高感度顧客には「デザインだけじゃなく、意味があるもの」が響きます。
- 「物語を語る」ブランド体験との連動。例えば、店舗空間、ウェブサイト、パッケージが一貫した “静かで本質的な美しさ” を語っており、それによって価格プレミアムが認められやすくなっている。
ブランドストーリーとパッケージの対話
→ Aēsopでは、ラベルの文章・店内ディスプレイ・店の建築デザインまで “物語” として設計されている(たとえば「アポセカリー風」「薬剤瓶」「手仕事感」など)。
→ 村上紙器工業所の “意思を運ぶ箱。” というブランドステートメントにおいても、パッケージ自身が「意思を運ぶ」役割を担います。
貼り箱では、「箱を開ける瞬間の気持ち」「中身と箱の対話」「箱を記憶に残す」などを意図した構造・色・触覚素材を入れることが出来ます。

◆ ブランドとパッケージの関係とは
ー パッケージは、ブランドの “物語を記憶化する装置” である ー
1. ストーリーを形にするメディア
ブランドが記憶に残るのは、感情を伴った物語を持つから。
その物語を “目に見える形” に翻訳し、手で触れられる体験として伝えるのがパッケージです。
Tiffanyの青は「愛の物語」、Appleの白は「革新の静けさ」、Aēsopの琥珀は「自然と知性」。
いずれも、パッケージがブランドのストーリーを瞬時に語ります。
2. 感情と記憶を結びつける装置
心理学的に、感情を伴う体験ほど長く記憶されます。
色、質感、音、重み──これらの五感刺激がアミグダラを刺激し、ブランドの印象を「忘れられない感覚」として脳に刻みます。
パッケージは、ブランドと人の感情をつなぐ “記憶のトリガー” です。
3. 一貫した世界観を具現化する証拠
Aēsopのように、ボトル・店舗・言葉のトーンまで統一されているブランドは、「らしさ」を無意識に想起させます。
パッケージはその世界観を物理的に体現し、ブランドの信頼と一貫性を支えます。
4. 費用ではなく “記憶資産への投資”
パッケージはコストではなく、ブランド記憶を生み出す投資です。
良いパッケージは「記憶 → 再購入 → ブランド資産化」という循環をつくる。
つまり、パッケージはROI(投資利益率)ではなく、 BROI(※ブランド投資利益率)で見る領域です。
※BROIについて:+1,000円の箱が、ブランドに2,000円の価値を生む理由
◆ まとめ
ブランドは「語るもの」、パッケージは「触れる物語」。
両者が連動すると、
製品は単なる物を超え、
“記憶される存在” = 文化的ブランド へと昇華します。
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