新しいターゲット層に訴求するパッケージデザイン|若返りで、長年のお客様を置き去りにしない
公開日:2018年08月05日(日)|貼り箱
箱が変われば、商品の「意味」が変わる ─ 若年層の心を掴むエレガントな顧客体験(UX)の作り方
「自社商品の客層を若返らせたい」とお悩みの経営者様へ。新規開拓のカギは「パッケージ」にあります。本記事では、大人向けだった真珠ジュエリーを、気品を保ちつつ20代向けに刷新した貼り箱の事例を紹介。箱を変えてブランド価値を再定義し、新たな顧客層の心を掴むヒントがここにあります。
「うちのお客様、年齢が上がってきた」
経営者の方と話していると、こんな言葉をよく聞きます。「今のお客様はありがたい。でも、みんな年齢が上がってきた。10年後が心配だ」。

とても健全な危機感だと思います。ただ、ここで焦って箱を若者向けに作り変えると、思わぬことが起こります。何十年も買い続けてくださったお客様が、新しい箱を見て「もう自分のためのブランドじゃないんだな」と感じてしまうのです。
新しいお客様はまだ来ていない。なのに、古くからのお客様の心は離れはじめている。若返りの失敗は、たいていこの形をしていると私は見ています。
真珠の老舗が選んだ「もうひとつの入口」
大阪・心斎橋の真珠ジュエリーメーカー、株式会社光貴さま。主力は30〜40代以上の女性に向けたフォーマルな真珠ジュエリーで、パッケージも重厚な雰囲気でした。
光貴さまには、20代の若い世代にも真珠を楽しんでほしいという想いがありました。真珠が持つ冠婚葬祭のイメージを、普段のファッションとして使うものに変えたい。そこで選んだのが、今のブランドを若く作り変えることではなく、ベビーパールの新ブランド「ルベミール(Lubemille)」を立ち上げることでした。
私はこれを、とても賢い選択だと思っています。フォーマルな真珠を求める大人のお客様にとってのブランド像はそのままです。そのうえで、20代の人たちには別の入口を用意したわけです。
若返りの道は、ひとつではない
客層を若返らせる方法は、大きく分けて3つあると私は考えています。
1つ目は、今のブランドの表現を少しずつ更新していく方法です。既存のお客様に違和感を与えにくい反面、変化が小さく、若い世代に気づいてもらえないこともあります。
2つ目は、光貴さまのように新しいブランドやラインをつくる方法です。既存のお客様のイメージを守りながら、新しい客層に合わせた表現を思い切って試せます。
3つ目は、ブランド全体を刷新する方法です。インパクトは大きいのですが、長年のお客様が離れるリスクも、資材や在庫を切り替えるコストもいちばん大きくなります。
中小企業にとって、2つ目の道は現実的です。新しい箱をつくるのは新ラインの分だけでいいので、投資を限定したうえで反応を確かめられます。
若い人向けでも、子ども扱いしない
ルベミールの箱で私が大事にしたのは、手に取りやすいこと。そしてカジュアルすぎないことです。
真珠は、今も大人の宝石というイメージがあります。そのイメージは、若い人にとっては「ちょっと背伸びして手に入れる喜び」にもなると私は思っています。若返りを意識するあまり箱を軽くしすぎると、この背伸びの喜びまで消えてしまいます。
そこでパール系の紙(きらびき、一部に五感紙)を貼った、台紙式のシンプルな貼箱にしました。明るく、手に取りやすい。けれど内装にはあえて黒のウレタンを使いました。パール紙と黒の内装、そこに置かれた真珠が、モノトーンに近いコントラストで品格を保ってくれます。
変えるのは「言葉づかい」。変えないのは「人格」
光貴さまには「品質・デザイン・美しさ」というブランドの軸があります。この軸はフォーマルな真珠でも、ルベミールでも変わりません。
人にたとえるとわかりやすいと思います。同じ人でも、年配の方と話すときと若い人と話すときでは、言葉づかいを変えますよね。でも、人柄までは変えません。ブランドの若返りも同じです。変えるのは言葉づかい、つまり色や重さや開け方です。人柄、つまり品質への誠実さは変えない。これが、長年のお客様に「このブランドらしい」と感じてもらえるための一線だと思います。
箱が目立ってもダメ
工場にお越しいただいた際、私は野原社長に「箱が目立ってもダメです」とお伝えしました。社長も作り手として、すぐに共感してくださいました。
若返りを狙うときほど、箱で目新しさを出したくなります。でも箱は主役ではありません。光貴さまが目指したのは、額縁のように真珠を見せる箱です。主役の商品がいちばん美しく見えることが、若い人にも、長年のお客様にも伝わる共通言語になります。
箱の外側まで含めて、ブランドは若返る
正直に書いておきます。ルベミールが育ったのは、箱のおかげだけではありません。野原社長ご自身が、息子さんやスタッフの皆さんによるネット発信の工夫が大きかったと話されています。
野原マネージャーは、自分のために買ったお客様にも、プレゼントを受け取ったように喜んでほしいと考え、発送時には必ず手書きのメッセージを添えているそうです。若い世代への届け方を変えたとき、箱はその体験の「最初の一場面」を担います。取材時(2020年)には箱の発注ペースが上がり、返品もクレームも一度もないと語ってくださいました。
若返りの箱を考える前に、経営者が決めておくこと
1つ目は、今のブランドを変えるのか、新しい入口をつくるのか。ここを決めずに箱のデザインから入ると、判断の軸がぶれます。
2つ目は、どの世代に向けても絶対に譲らないものは何か。これが言葉になっていれば、表現をどれだけ変えても「らしさ」は残ります。
3つ目は、長年のお客様がその新しい箱を見たら、どう感じるか。できれば、実際に何人かのお得意様に見ていただくのがいちばん確かです。
若返りは、今までのお客様への裏切りではありません。今までのお客様が大切にしてきたものを、次の世代へ手渡すことです。パッケージは、その橋渡しを静かに担えると私は信じています。
よくあるご質問
Q1. 客層を若返らせたいとき、今の箱を全部変えるべきですか?
A1. 必ずしもそうではありません。新しいラインやブランドの分だけ新しい箱をつくれば、既存のお客様のイメージを守りながら、投資も限定できます。
Q2. 若い世代向けなら、デザインもカジュアルにすべきですか?
A2. 商品が持つ「格」を下げすぎると、若い世代にとっての魅力まで失われることがあります。手に取りやすさと品格の両方を考えることをおすすめします。
Q3. 長年のお客様に離れられないためには、何に気をつければいいですか?
A3. 表現は変えても、品質やこだわりといったブランドの芯は変えないことです。新しい箱を既存のお得意様に見ていただくのも有効です。
(更新日:2026.9.27)
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著者:村上紙器工業所 代表 村上 誠
大阪で三代続く貼り箱製造業を営み、パッケージを通してブランド価値を設計するパッケージコンセプター。30年以上、様々なお客様の課題解決の経験を活かして、パッケージデザインから顧客価値を提供します。
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