第二話。「文創りのエチュード」〜貼箱×放送作家〜

公開日:2010年9月1日(水)|お知らせ

8月31日から始まったコラボ企画「貼箱 × 放送作家」シリーズの第二話。

舞台脚本、テレビの構成台本、小説など、幅広く活動されている松尾成美さんが主宰する文章教室の生徒さんに、「貼箱」をネタに「エッセイ」または「フィクション」を書いていただき、弊社サイト上に掲載するという企画です。

1日1話づつ、7人の方による計7話の連続掲載を致します。
文章教室【奈良の学園前 アートサロン空】の生徒の皆さんの力作を、どうぞご堪能ください。

宜しくお願い致します。

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 ※使用箱:紺色のDVDケース(詳細は、こちらをご覧ください。)

<フィクション>

   ハッピーボックス

                     西森 郁代

私は25歳、小さな出版社に勤めている。
今日は、情報誌の編集会議だ。私の取材原稿に、編集長の叱咤がもう30分以上も続いている。20分を過ぎた頃から、私は右手の指輪をクルクルと回し始めた。そして、『ちょっと待て、ローン残ってるやん』と心の中で呟いた。
今朝、出勤前に箱から取り出したのが、このサファイアの指輪だ。
箱には4つの指輪が入っている。大きな仕事、難しい仕事を終えた時、自分への褒美に買ったものだ。すべてローンで買い、支払いが残っているのは、このサファイアだけだ。
 私はすぐ『会社辞めたい病』にかかる。今日の会議中だってそうだ。「辞めさせていただきます」の言葉を呑み込んだのは、箱にある指輪とこのサファイアのためだ。『ローンどうするの』こうして辞めたい病に「待った!」がかかる。だから全てローンで買うのだ。  
指輪を回しすぎて指が赤くなってきた。それでも、『ちょっと待て』と心の中で呟いた。
 やっと編集長の話が終わった。のどが乾いていたのだろう、ウーロン茶を一気に飲んだ。そしてダミ声で「青山君、俺の話わかったな」と言いながら、チラッとこちらを見た。

 この日はほんとうに長い一日だった。編集長の怒りを買った取材をやり直して、マンションに帰ったのは夜10時をすぎていた。
 玄関で靴をぬぎすて、そのままベッドに倒れ込む。片方の靴が、ドアにあたり裏返っている。しばらく天井を見ていたが、ガバッと起きあがり冷蔵庫の方に歩く、といってもほんの数歩だ。ビールを飲みながら、箱を開けると、「ちょっと待て。ローン、ローン」と囁いている気がした。あわててふたを閉めた。
「あーあ、ちょっと待てじゃなくて、ハッピーハッピーと囁いてく
れたらいいのになー」
と言った。“ちょっと待てボックス”が、“ハッピーボックス”
になるにはどうしたらいいのだろう。しばらく箱を見つめ考えていた。
そうだ、辞めたい病を治そう、ローンも払ってしまおう、と思った。
 好きで選んだこの仕事だ。もう一度スタートラインに戻ろう。小さなことでいい、仕事を通して人に喜んでもらおう。何より私自身が、仕事ができる喜びを毎日感じて生きていこう。そしたらハッピーボックスになるかもしれない。
そう思うと、私はクローゼットの奥にある別の箱を取りだしてきた。この箱はもともとDVDが入っていたらしいが、友達に無理に譲ってもらった物だ。濃紺の表面のツルリとした手ざわりと、いかにも手仕事らしい、丁寧なつくりが気にいっている。
 左開きのふたを開け、「ハッピーハッピー」と叫ぶと、パッとふたを閉めた。
 それから、にっこりと笑った。

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