◎村上紙器工業所
「お客さまインタビュー」シリーズ 5

「村上紙器なら他社と差別化できると、密かに思っていました。」 - 株式会社福井 代表取締役 福井基成さま  企画営業 市川善夫さま  職人 丸山忠孝さま

 株式会社福井さんは、2022年に創業110年を迎える堺市の会社です。堺打刃物をはじめ、農業・園芸・ガーデニング関連用品や工具・DIY用品など幅広い商品を扱っています。以前より社内で包丁を内製したいという強い想いがあり、そのブランドの立ち上げに際しコンセプト段階から深く関わらせていただきました。   
 海外向けという条件もクリアしなければならなかった、ハードルの高い新ブランドの立ち上げ。今回、村上紙器工業所がいかに関わっていったかを、このプロジェクトのメンバーである福井社長、市川さん、丸山さんの3人のお話しでご紹介します。

「村上紙器なら他社と差別化できると、密かに思っていました。」(市川)

 2019年の夏ころの話しになりますけど。思うところがって、インスタグラムやインターネットでパッケージをよく検索していたんです。いろいろ見ていた中で、村上さんのところのパッケージを“良いなあ”と思って眺めていたんです。
 こんなところと組めば、いままでの問題点をクリアできるかな。他社との差別化がはかれるかな。そんなカンジで見ていました。 
 2018年の2月に海外の市場調査と営業開発を兼ねてパリとロンドンの販売店を見て回ったんですが、どこも同じで、包丁はハダカでショーケースに並べられていました。それらのお店では試し切りをやっているわけでもないので、包丁は“切ってみないとわからない”商品なのに、切れ味での差別化ができていない状態でもありました。刻印かブランド名でしか認識できないから、商品での差別化はむつかしいだろうなあ。それなら、パッケージで差別化できないかなあと、じぶんなりに想いをめぐらしていました。(市川)

堺、和包丁のブランディング
左から企画営業の市川氏、刃付け職人の丸山氏

「きっかけは、大阪産業創造館からのメールでした。」(福井)

 ヨーロッパでの見聞で“われわれは後発だけど、パッケージでなんとか追いつけるのではないか”と言うイメージがあったんですね。そんなところへ、大阪産業創造館からわたし宛にパッケージ展の案内メールが来たので、市川くんに“行ってきたら”って渡したんですよ。(福井)

堺、和包丁のブランディング
福井社長(右端)

「ちょうど、いままでのパッケージから、違うイメージに変えたいと思っていたころでした。」(市川)

 パッケージ展へは2019年にわたしが一人で行って、2020年に丸山くんと一緒に行きました。現場で村上紙器さんのサンプル展示を拝見したふたりの印象は、素材感がいいなあ。落ち着きがあって、上品だなあと言うところでしょうか。「高級感=黒」というイメージがありましたので、村上紙器さんでつくられているものから、なんとなく勝手に、もしつくるならゴールのイメージもそれに近いように感じました。
 いままでの弊社のパッケージからそろそろイメージを変えたいなと、思っていましたが…。正直に言うと、高そうだなあと思いまいした。高品質なパッケージは大切だとわかっていても、いままではどうしてもコストを押さえることに判断の主眼を置いていました。
でも、なんとかパッケージによって、差異化したかったのは、まぎれもない事実なんです。(市川)
 日本では“縁を切る”などと言って、包丁をプレゼントする習慣はありませんが、ヨーロッパでは包丁はよくギフトに用いられています。日本でも定着できればいいんですが、なかなか啓蒙ができていません。それをいつか逆輸入できたら、パッケージは重要な要素になりますよね。
 さらに、内輪の事情で言うと、2019年4月には包丁を内製化するための工房がオープンしました。同時期に丸山くんが修行から帰り(注:丸山さんは福井さんに籍を置きながら3年間の包丁研ぎの修行に出ていました。)、2020年には商品ができてきていたので、そろそろパッケージを変えたいと思っていました。(福井)

堺、和包丁のブランディング
撮影:福永浩二

「パッケージだけつくるつもりで訪問したんですが、いきなりコンセプトはなんですか?って言われました。」(市川)

 2020年の展示会の場で村上さんとアポを取って、丸山くんとふたりで工場を訪問しました。そして、いろいろサンプルを見せてもらったあとで、本論のパッケージ製作の話をはじめると、いきなり村上さんが「コンセプトはなんですか?」って切り出したんですよ。「えっ??」と、思いましたね。さらに「コンセプトがあって、それを体現するのがパッケージなんですよ。」「ブランディングが必要じゃないですか?」と、熱い語りがはじまったんですよ。(市川)
 ちなみに、わたしは“モノだけではブランドはつくれない”という、いつもの話をしただけなんですけどね(笑)。(村上)

堺、和包丁のブランディング

「こりゃ、大変なことになりそうだと思って、社長に報告したんです。」(丸山)

 箱だけつくるつもりで行ったのに、大変なことになりそうだと思いましたね。(丸山)
 わたしはブランディングの本を読んだりして、少しかじっていたので、村上さんの話を聞いて逆に波長が合うと思いましたけどね。それでも、いったい、いくらかかるんだろう…と、ビビりましたね。正直、丸山とふたり、クルマの中でどうしよう…って。(市川)
 クルマの中でふたりとも、“どうしよう…” “どうしよう…”と、思いながら帰ったことを覚えています。(丸山)

堺、和包丁のブランディング

「すでに弊社の環境が変わっていまして、どうしても海外に出て成功したかったんです。」(福井)

 卸は順調でしたが、刃物の売り上げは年々下がっていました。弊社の会長の中でも、“何屋かをハッキリしたい”という想いが年々強くなっていたと思います。
 海外への進出はわたしが入社してから、こんどで2回目です。正直、1回目は大失敗でした。だから、今回は期すべきものがあったし、強い想いがありました。工房もでき、丸山も帰ってきたこともあり、自社製のモノもできつつありました。各国にお客さまが少しずつできてきていた背景もあります。
 そう言う意味では、新ブランドをデビューさせる機は熟していたと言えるかもしれません。村上さんの“海外に打って出るなら、モノだけではなくブランド力が必要だ”と言う話には強い説得力がありましたし、とても共感できる話でした。(福井)

堺、和包丁のブランディング

「プレゼンしていただいたアイデアは、非常に面白い内容でした。」(福井)

 たしか、すぐに市川さんとのやりとりがはじまったんですよね。でも、コロナで行けなくなってしまって焦りもありましたが、その間もやりとりは続きました。やりとりする期間が長くなった分、互いの理解も促進したと思います。それで、ブランディングをするならということで、わたしが懇意にしているクリエイターの中から、このふたりしかいないとアートディレクターの浪本浩一さんとコピーライターの田中有史さんを紹介しました。3人ではじめて会社を訪問したのが2020年の9月でした。それから月1〜2回くらいの頻度でミーティングを重ねながら思考を積み重ねて、年末に新ブランドのネーミングやコンセプトやクリエイティブなど、トータルな考え方をご提案しました(村上)
 ご提案をいただいたときには、弊社を取り巻く市場環境の変化、丸山くんの存在など、すでに“やらなきゃ、しゃーない!”と言う雰囲気になっていましたね。提案は、とても面白いものでした。じぶんたちで考えるとすぐにスペックの話になるけど、そうではありませんでした。マーケティングやブランドイメージをつくっていくようなことを、やってきたことがなかったわれわれには新鮮な驚きとともに、気持ちを前に向かわせてくれる内容でした。
 鍛冶屋さんが熱した綱をたたいて火花を飛ばすような世界観と差異化できるものにしていこうとおっしゃった言葉にいたく共感しました。われわれは後発ですし、熟練の職人さんと比べると若いです。若さ=未熟ではなく、その若さをプッシュしたいということで想いが一致しました。(福井)

堺、和包丁のブランディング

「いちばんの悩みは、ネーミングを変えるべきなのか?ということでした。」(市川)

 提案いただいたネーミングで悩みました。それまで使ってきた「OWL(オウル)」というネーミングを変えるべきかどうか、すぐには決められませんでした。わたしは愛着もありましたし…。(市川)
 議論して3案に絞ったんですが、3人3様に好みが分かれてしまいました。わたしはどうしてもモノよりのネーミングが好きでしたし、社長は精神性に寄ったネーミングがいいと言うし。最後は社長から任せると言われ、市川さんが押していた「HADO(刃道)」に決めたんです。(丸山)
 新鮮で面白いネーミングだと、全員が気に入っています。(市川)

堺、和包丁のブランディング

「ワイズベッカーさんのドローイングは、女性に評判がいいんです。」(福井)

 まさか、ワイズベッカーさんのようなビッグネームというか巨匠をメインビジュアルで提案して来られるとは思っていませんでした。
ちょうどご提案いただいた同時期に、神戸の竹中大工道具館で個展をやっていることも教えていただき、すぐに観にいきました。ワイズベッカーさんの道具への深い愛着を感じましたし、独特の美しい世界観をじぶんたちのものにできるなら、こんな嬉しいことはないなあと、思いました。
 じつは、ワイズベッカーさんからあがってきた絵を見せて、はじめて奥さんから褒められました。それまで、弊社の制作物のことで褒められたことなんかなかったんですよ。とにかく、ワイズベッカーさんの絵は“カワイイ”と、女性に評判がいいです。インスタグラムでも一番見られているのはワイズベッカーさんのページです。女性の反応がいいですね。ユーザーがパッケージ込みで投稿してくれるケースが多くて、本当に採用してよかった。ビッグネームだけの価値はあったと思っています。ずーっと、高級感=ブラック、シュッとした印象と思い込んでいたので、白を基調にしたパッケージをプレゼンされたときは“えっ?”と思いましたが、そこにも独自の世界観を醸成していくブランディングの考え方と計算があったんですね。そのおかげか、ヨーロッパや北米からの受注も滑り出しから好調です。(福井)

堺、和包丁のブランディング

3人それぞれの、今後の抱負や課題をお聞かせください。

 今後は日本人のユーザーを増やしていきたいですね。日本人のインスタグラムへの投稿も増やしたいです。そして、商品的にはラインナップを増やしたいです。(市川)
 わたしの課題は量ですね。いまは1日の生産量が少なくて、現在は半年もお客さまをお待たせしまっている申し訳ない状況です。(丸山)
 量を増やすためには丸山くんのサポートを考えたいです。(市川)
 営業、PRなどHADOプロジェクトの人員を増やして、チームを大きくしたいですね。丸山くんの後輩職人の野村くんもかなり研げるようになってきたし、4人までいけるように工房には砥石を増やそうと言っています。そして、ゆくゆくは工房に、“体験”や“見せる”機能も持たせたいと思っています。堺は独自の分業体制ゆえに他の産地と比べると生産数が少ないんです。でも、伝統工芸にAIやセンサーなどのテクノロジーをいかして、“丸山が研ぐ”という風情は残しながら、一定の部分を自動化できないかと夢想しています。
 そして次にヨーロッパへ行ったときには、商品とパッケージがキッチリと一緒に並んでいるようにしたいですね。目に触れることで、ブランドと触れる機会が増えますからね。そのための、他社とは明快に差異化したパッケージ戦略ですからね。(福井)
 一つずつ課題を解決していきたいですね。村上さん、これからも無理難題にお付き合いください。(3人)
本日は、ありがとうございました。これからも、よろしくお付き合いください。(村上)

堺、和包丁のブランディング

インタビュー&ライティング(田中有史:田中有史オフィス)
撮影&デザイン(浪本浩一:ランデザイン)

 じつは、今回のお仕事では「箱からはじまるブランディング」ということをわたしたちクリエイティブチームのテーマにしていました。そんな勝手な想いを実現させていただくことができたことを大変ありがたく思っています。でも、これは始まりに過ぎません。「HADOはブランド名でありプロジェクトでもある」という使命を持っています。それを具現化していくために、ますますプロジェトの皆さんとわれわれの意思を疎通させ、一つのチームとして共に歩んでいきたいと思っています。引き続き、よろしくお願い致します。(村上)

ブログ記事:パッケージからはじまるブランディング、和包丁ブランド

株式会社福井
代表取締役 福井基成さま 
 企画営業 市川善夫さま
   職人 丸山忠孝さま
〒590-0934 堺市堺区九間町東1丁1番10号
http://www.sakai-fukui.co.jp/company.html

HADOブランドサイト https://hado-knife.jp

お客様インタビュー/アーカイブ」は、こちらをご覧ください。

訪問日:訪問日:2021年7月14日
公開日:2021年08月25日(水)

※掲載内容は取材時の情報に基づいています。

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